第4章 嵐の前の静けさ<参>
「!?ぐっ・・・!!」
突然玄海が胸を抑え、苦しそうに呻きながら倒れこむ。その様子を怪訝に思った汐が近づくと。
「く・・るな!!」
くぐもった声と共に、汐の体は後方へ吹き飛ばされた。
砂煙をあげ転がる汐。何とか起き上がると、右腕に鋭い痛みが走る。視線を向けると、二の腕あたりが大きく切裂かれ血があふれだしていた。
だが、汐の眼はそれよりも目の前の『モノ』にくぎ付けになった。そこにあった、いたのは・・・
全身に欠陥を浮き上がらせ、鋭い爪を持ち、目を真っ赤に血走らせた玄海によく似たものが、そこにいた。
「おや・・・っさん・・・?」
何が起こっているのかわからず、汐が小さく名を呼ぶと、それはすぐさま汐の元へと躍りかかった。
反射的に体を回転させてそれをかわすが、それは何度も汐のいるところを狙ってくる。
「おやっさん!?どうしたの!?あたしだよ!汐だよ!わからないの!?」
だが、それは汐の声が聞こえないのか攻撃の手を緩めない。出血しているせいか、めまいがする。おそらくもうあまり体力も残っていない。
このまま殺されてしまうのか。そう感じ始めた瞬間。
2人の間に一陣の風が吹いた。
その瞬間、それの両腕が吹き飛ぶ。そして汐が次に目にしたものは、右半分が無地・左半分が亀甲柄の羽織を着た青年の背中だった。
(誰・・・?)いきなり現れた闖入者に、汐は驚きを隠せない。彼の手には一本の刀が握られている。
「下がっていろ」青年はそれだけを言うと、刀を目の前の相手に向かって構えた。
「待って!あれは違う!あれはあたしの育ての親なの!手荒なことしないで」
青年は振り返って汐を見る。整った顔立ちの青年は少し顔をしかめると、淡々と言葉を紡いだ。
「あれはもはや、お前の知っている親ではない。あれはもう人ではなく、鬼だ。俺の仕事は鬼を斬ることだ。だから当然、お前の親の首をはねる」
「待ってよ!おやっさんはまだ誰も殺してない!たった今、たった今そうなっただけ!だから・・・」
青年は小さくため息をつくと、汐の言葉を待たずに切りかかった。だが、切ったはずの腕が再生し、その一撃を防ぎ反撃する。
青年はその動きを読もうとあちこちに動く。そんな様子を、汐は涙で歪んだ視界の中眺めていた。