第4章 嵐の前の静けさ<参>
その荒々しい風貌とは裏腹の、無駄のない動きに汐は目を奪われそうになる。そして今まで見たことがないほど、強く険しい眼。
「汐!!」突如玄海の声が響いた。汐の後方から鬼がこちらへ向かってくる。
「!!」
汐は鬼の攻撃を間髪で避けるが、その時汐の袂から薬の瓶が飛び出し、鬼にぶつかって砕けた。そして、その中身が鬼にかかった瞬間。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」
鬼が凄まじい悲鳴を上げながらのた打ち回る。そしてその体は、どろどろに溶けていきやがて動かなくなった。
「何・・・これ・・・」
汐は今目の前で起こったことが信じられなかった。玄海を治すはずの薬が、鬼を溶かし絶命させた。
鬼がこのような状態になるなら・・・人間が服用したら?
「汐・・・」
呆然とする汐の背中に、玄海は声をかけた。汐はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「嘘、だったの?おやっさんを治す薬ができたっていう話」
「汐、違う。聞いてくれ」
「何が違うの?だって、こんな奴らが死ぬようなものが人間に害がないわけないでしょ?これじゃ薬じゃなくて、毒じゃない」
「汐、落ち着け。俺は」
「あたしに嘘ついてたの?嘘ついて、あたしに、毒薬買わせようとしたの!?」
手を差し伸べる玄海の手を、汐は振り向きざまに振り払った。
「ふざけるな!鬼のことだって今のことだって、なんであたしに何も言わなかったんだ!」
「それは、お前を守る・・・」
「守る?綺麗事を言うな!!勝手に託して自分は毒でさっさと退場!?本当はあたしが嫌になったんでしょ?物覚えも悪いし、血も繋がってないし、もう飽きたんでしょ!?家族ごっこに」
「違う!俺は、お前のことを・・・!」
「うるさい!もう二度と、あたしの前で父親面するな!!!」
そこまで叫んだろき、汐はあわてて口をふさいだ。が、汐の声は鋭い刃となり、玄海の心を裂いていく。
玄海の瞳がこの上なく激しく揺れる。と、その時だった。