第36章 幕間その参
「炭治郎!?なんであんたがここに・・・?」
「なんでって、ふと目が覚めたらお前の匂いがしたから気になって・・・」
「人の匂いをあんまりかがないでよ、っていっても、あんたには無理か」
汐は少しお道化たように笑ってそう言った。だが、彼女から漂う匂いは、言葉とは裏腹に物悲しいものだった。
「で、なんでさっき自分のことを最低だって言ってたんだ?」
「それ、絶対言わなきゃダメな奴?」
「嫌なら言わなくてもいいけれど、汐の場合はため込もうとするから駄目だ」
「思い切り矛盾してるわよ、それ。はあー、あんたにはほんとかなわないわね。隠し事の一つもできやしない」
汐は大きくため息をつくと、観念して話し始めた。自分でも驚くくらい、家族の絆に飢えていたこと。そして、炭治郎と禰豆子の事をうらやんでいたこと。
――自分が二人と家族になった気でいたこと。
話を聞いた炭治郎は、ぽかんとして汐を見つめた後ぽつりと漏らした。
「お前、そんなことで悩んでいたのか?」
この言葉に流石の汐も憤慨し、炭治郎に詰め寄る。すると炭治郎は慌てたように首を横に振った。
「ああ違う。汐を馬鹿にしたわけじゃない。ただ、俺はもうとっくに汐のことを家族同然に思っていたから」
「え?」
今度は汐がぽかんとして炭治郎を見つめる。すると彼は汐の隣に腰を下ろして静かに話し出した。
「確かに俺たちと汐に血のつながりはない。けれど、血のつながりがないからって関係が薄っぺらいなんてことはないと思う。家族も仲間も、強い絆で結ばれていれば同じくらいに尊いんだ」
それに、と炭治郎はつづけた。
「強い絆で結ばれている者には信頼の匂いがする。家族、恋人、友達、仲間。呼び方はそれぞれだけれど、そのどれもが同じだったんだ。俺も禰豆子も、汐を心から信頼していると思っている。汐は違うのか?」
「それはない。そんなこと絶対にない。あたしは炭治郎と禰豆子には本当に感謝している。どうしようもないあたしを受け入れて支えてくれたあんたたちを、誰よりも信頼している、それは確かよ」
そう言い切った汐からは、確かに信頼の匂いがした。それを感じ取った炭治郎は嬉しそうに笑う。