第36章 幕間その参
夜も更け、皆各々の布団に入ったころ。
いつもならすぐに値付けるはずの汐は、その日に限ってはなかなか眠ることができなかった。
目を閉じながら何度も何度も寝返りを打っても、一向に寝付けない。とうとう汐は掛布団を蹴って跳ねのけると、そのまま起き上がって外に出た。
その夜は上弦の半月が掛かっていたが、雲に覆われてぼんやりとしか見えない。そんな空の様子が今の自分の気持ちを表しているようで、汐は苦笑した。
縁側に座り、特に何もすることもなくぼんやりと空を見上げる。ぬるい風が汐の頬をゆっくりとなでては通り過ぎていく。
「家族、か」
不意に自分の口から出てきた言葉に、彼女自身も驚く。禰豆子と風呂に入った時に思い出した故郷のことを引きずっていたことにもだ。
自分には血がつながった家族は誰もいない。玄海とでさえ血のつながりがない家族だった。
そのつながりも、今はもうない。汐にとって家族と呼べる存在はもうこの世のどこにもいないのだ。
だから、だろうか。炭治郎と禰豆子の事がこれほど気になるのは。
自分が失ったものを持っている二人。自分には決してもう手に入らない、血のつながった家族。絆。
(ああ、そうか。あたし、二人がうらやましかったんだ。禰豆子を絹と重ねて、自分ができなかったことをやり直そうとしているんだ。家族になった気になっていたんだ)
だとしたら馬鹿げている、と汐は思った。禰豆子とは血のつながりは勿論ないし、過ごしてきた時間だって決して長くはない。
それだけで自分は炭治郎や禰豆子と深くつながった気でいたんだと思うと、ちゃんちゃらおかしくって聞けやしない。
【仲間】にはなれても【家族】にはなれないのだ。
「・・・あたしって、最低だな」
今の自分の心に巣くう思いをそう口にすると、不意に背後から声が聞こえた。
「何が最低なんだ?」
汐は心底驚き、思わずその場から飛びのいた。そんな彼女に、声の主も驚いたように息をのむ。
そこには心配そうな眼で汐を見つめる炭治郎の姿があった。