第36章 幕間その参
「お前の言ってること、全然意味が分かんねえ。なんでそんなことをいちいち気にするんだ?お前が何しようがどうしようが、俺には何にも関係ねえことだからな!」
伊之助の言葉に、汐は虚を突かれた思いで見つめる。正直、伊之助も何言っているのかがわからなかったのだが、気のせいだろうが汐のことを気遣っているような感じがした。
そんな彼に、汐の心が少しだけ温かくなる。そして「そうね。野暮な事だったわね」とほほ笑みながら言った。
「でもだからって、あんたが抜け出していい理由にはならないからね。今日はあんたが寝付くまでここにいるわ」
「はあ!?お前がいちゃ気になってしかたねえ!!さっさと戻れよ!」
「いーや。あんたが寝付くまでここにいる。あ、そうだ。どうせなら子守唄歌ってあげるわよ。炭治郎と禰豆子にも好評な子守唄」
汐の思いがけない提案に、伊之助は思わず動きを止める。が、数秒待たずに「子守唄ってなんだ?」という言葉が返ってきた。
子守唄を知らない伊之助に驚きつつも、汐は子守唄の説明をする。
「子守唄っていうのは、子供を寝かしつけるときに歌う歌よ。今のあんたは寝たくなくて駄々をこねる子供のようなものだもの。絶対に聴いてもらうから」
伊之助はまだ何か言いたげだったが、汐はそれを無視すると目を閉じて口を開いた。
優しくあたたかな旋律が汐の口からこぼれだし、伊之助の耳に吸い込まれていく。伊之助の全身が温かなものに包まれ、心の中までほわほわと温かくなっていった。
(なんだ・・・?これ?急に、眠く・・・)
ふわふわと浮き上がるような不思議な感覚に抗うこともなく、伊之助はそのまま深い眠りに落ちていった。すぐさま寝息を立て始めた彼に、汐はその寝つきの速さに驚く。
(今まで寝かしつけた奴の中で、寝つきが一番早いわ。意外とおりこうさんだったりして)
そんなことを思うと、汐の口に思わず笑みが浮かぶ。そんな彼女だが、猪の皮の隙間から鼻提灯を膨らましている伊之助を見て少しばかりいたずら心が疼いた。