第36章 幕間その参
その後、伊之助は何度か部屋を抜け出していたが、その度に汐が見つけ引きずるという光景がよく見られた。
一度汐に酷い目に遭わされているせいか、伊之助は汐に見つからないようにこっそり行動し、そんな自分に腹を立てて怒鳴り見つかるということを繰り返していた。
そしてそれが何度か続いた日の夜。
「・・・あんたね、いい加減に学習しなさいよ。これで何度目?」
目の前に横たわる伊之助を呆れたように見下ろしながら、汐はうんざりしたように言った。伊之助は不貞腐れたようにそっぽを向き、目を合わせようとしない。
「医者が言うにはあと少しで完治するって。本当ならとっくに治ってもおかしくないのに、あんたが暴れまわるから治りが遅いのよ?そこんとこ分かってんの?」
「うるせえな」
伊之助は汐に背中を向けたまま、ぶっきらぼうに答える。それからそのままの姿勢で伊之助は反対に問いかけた。
「そもそもお前には関係ねえだろ。なんでそんなに俺に構うんだ?」
「なんでって・・・そんなの当り前じゃない。あんたが心配だからよ」
「なんでお前が俺のことを心配するんだよ?」
伊之助がさらに問いかけると、汐は少しの間言葉を切る。そして言葉を選ぶようにゆっくりと話し出した。
「あんたには、酷いことをしちゃったからね。鼓鬼の屋敷でも、ここに来た時にも。その償い、っていうわけじゃないけれど、あんたにずっと謝りたかったのよ」
声の雰囲気が変わったことに伊之助は目を剥くと、思わず汐の方を振り返った。
「言い訳に聞こえちゃうかもしれないけれど、あたし怒りが抑えられなくなるとすぐに手が出ちゃうの。もちろん、誰これ構わずはしないわ。あまりにも腹が立った時だけよ」
それもよくないんだけどね、と汐は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「だから、あんたを傷つけたことをすごく後悔している。本当にごめん」
そう言って汐は深々と伊之助に向かって頭を下げた。そんな彼女の姿をみて、伊之助は何かを考えているようだったがふと口を開いた。