第36章 幕間その参
不器用な子守唄
「くぉらああああああ!!!!動くなっつってんだろーが馬鹿猪ィィィ!!!」
家じゅうに汐の怒声が響き渡るのと同時に聞こえてきたのは、伊之助と汐が走り回る地響きのような音だった。
あの日から数日。汐の肩の怪我はすっかり治ったものの、肋骨を骨折している伊之助はまだそうもいかず安静が必要だった。
にもかかわらず、伊之助はじっとしているのが嫌いなのか、部屋を抜け出しては走り回る始末だった。
そんな彼を追いかけまわし連れ戻すのが、いつしか汐の役割になっていた。
「うるせえええ!!!俺はじっとしているのは性に合わねえんだ!!早く強い奴と戦いたくてうずうずしてんだよ!」
「だったらまず怪我が治ってからにしなさいよ!悪化したら元も子もないわよ!つべこべ言わずに部屋に戻りなさい!」
汐と伊之助の言い争う声が響き渡る。そんな様子を炭治郎と善逸は複雑な表情で見ていた。
伊之助の気持ちはわかる。何日もじっとしていては体が鈍ってしまい、いざというときに動けなくなってしまう。それは確かだ。
しかし汐の言っていることは間違ってはいない。医者の話でも、三人は動けるような状態ではなく安静が必要であることは確定していた。
だからこそ、二人は汐達の間に入っていくことができなかった。
「あーもう、うるせえぞわたあめ牛!なんでそんなに俺にかまうんだ!?お前には何の関係もないだろ!?」
「あたしは大海原汐だ!あんたの怪我が心配だからに決まってるでしょ!!仲間の怪我が悪化して喜ぶ奴なんて、頭がおかしい奴だけよ!」
汐の言葉が耳に入った瞬間、伊之助は息をのんで動きを止める。ほわほわと、胸の奥から何か温かいものがこみ上げてきたからだ。
急に動きを止めた伊之助に困惑する汐だが、これ幸いと伊之助の手を取り歩くように促す。
自分よりも二回り以上小さいその手に引かれて歩く伊之助は、その感情が理解できないまま汐に引きずられていくのであった。