第4章 嵐の前の静けさ<参>
「絹!!」汐が叫ぶと、絹は目を見開き涙を流しながら叫んだ。
「汐ちゃん!助けて!助けてぇ!!」
「絹!!」
だが、絹を助けようと近づくと、死角から何かが襲い掛かってきた。汐が間一髪でかわすと、そこにはまた別の鬼が汐に向かって狙いを定めている。
「邪魔だ!退け!!」
先ほどまでは恐怖の対象だった鬼だったが、今は絹を助けなければという思いが怒りへと変わっていた。汐は襲いかかった鬼の一撃をかわし、渾身の蹴りをその鳩尾に叩き込んだ。
人間相手には加減していたが、今の汐には加減という言葉がない。受ければ間違いなく肋骨は折れ内臓に損傷が残るだろう。
しかし、それは相手が人間だったらの話だ。目の前にいるのは、鬼だ。
鬼は汐の蹴りに殆どひるまず、逆に汐の足をつかんで砂浜にたたきつけた。
衝撃と鈍い痛み。口の中を切ったのか、鉄の味が広がる。
鬼はこれを好機とみなし、その鋭い爪を汐に向かって振り上げた。
「なんで・・・なんで効かないの・・・くそっ!!」
振り下ろされる爪が、いやにゆっくりに見える。このまま自分は死ぬのか?そんなの、そんなのは・・・
「汐!!!」
思わず目をつぶった汐の耳に、聞きなれた怒声が響いた。そして次の瞬間。
鬼の頭が宙に浮き、その傍らには刀を振りぬいたままの玄海が立っていた。
「無事か!?汐!
「お・・・おやっさん!!」汐は鬼から飛びのき、玄海にしがみつく。安心のあまり、目からは涙がこぼれた。
「あ、そうだ!絹が!!絹!」
汐が辺りを見回すと、そこには今しがた切った鬼が崩れていくのがあるだけで、絹の姿はどこにもなかった。
「おやっさん!絹が・・・絹があいつらに連れて行かれた!絹を助けなきゃ・・・」
「落ち着け。鬼はお前じゃ殺せない。あいつらは不死身だ。殺すには日光かこの刀で頸を斬るよりほかはない」
「じゃあ早く行こう!今ならまだ間に合うよ!ねえ、おやっさん!」
だが、汐が言い終わる前に、再び鬼たちが集まりだした。二人をぐるりと取り囲み、奇妙な声を上げている。
「汐。お前は俺から離れるんじゃねえ。決して、戦おうとは考えるな。奴らは、お前が今まで相手をしてきた連中とはわけが違うんだ」
それだけを言うと、玄海は襲い来る鬼たちを次々に刀で切裂いていった。