第36章 幕間その参
村人と自分の養父の事。村一番の美人と名高い親友の事。鬼の襲撃に会い村が消滅し、養父が鬼となったこと。そしてその鬼を自らの手で引導を渡したこと。
鬼と自分への憎しみと殺意で狂いそうになっていた時、炭治郎や禰豆子、鱗滝に出会ったこと。鬼である禰豆子を受け入れることが難しかったこと。そして、自分が救われたこと。
話を聞きえ終えた善逸は、呆然としたまま汐の顔を見つめていた。そんな善逸の表情に気づかないのか、汐はわざとお道化て言った。
「あたし、あんたの事すごいと思ってるのよ?あんたは禰豆子が鬼であってもあっさり受け入れたでしょ?あたしは最初は無理だった。禰豆子を殺そうとまで思った。けれど、そんなどうしようもないあたしを炭治郎と禰豆子は受け入れてくれたの。だからあたし、二人のためなら何だってできるって思うの」
汐はそう言って窓から空を見上げた。少し欠けた十六夜の月が、汐の青い目に静かに映る。
そんな汐の横顔を見て、善逸はうつむき消え入りそうな声でぽつりと言った。
「すごく、なんかないよ。汐ちゃんも知っているだろ?俺、自分のことが一番好きじゃない。鬼を見るとああやって怯えて泣いて逃げて。結局汐ちゃんの事も危ない目に遭わせて」
善逸はそう言うと膝の上で手をぎゅっと握った。
「俺も言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、変わりたいし強くなりたいって思ってる。思ってはいるのに何をやっても全然だめで、雷の呼吸だって実は壱ノ型しか使えなくて・・・」
弱弱しく語る善逸に、汐は黙ったまま思考を巡らせた。慰めようにも、うまく言葉を選ばなければ気休めととられてしまうのがおちだからだ。
だが、汐はひとつ気になることを見つけた。善逸が言った、雷の呼吸の事だ。
「へ?ちょっとまって。あんた、壱ノ型しか使えないの?」
汐が言うと、善逸は体を震わせながら深くうなずいた。
「雷の呼吸は六つあるんだけど、俺ができたのは一つだけ。だからすごくなんか――」
「すごくないわけないでしょ!むしろすごいじゃない!それだけで今の今まで生き残ってきたんだから!」
汐の思わぬ大声に善逸は驚き、汐の顔を見る。彼の黄色い瞳に汐の顔が映った。
そんな善逸の眼を見て汐はは小さくうなると、再び視線を逸らす。