第35章 歪な音色(後編)<肆>
「鬼殺隊はなあ!お遊び気分で入るところじゃねえ!お前のような奴は粛清だよ!即粛清!!鬼殺隊を舐めるんじゃねえ!!」
善逸がそう叫んで炭治郎に斬りかかろうとした瞬間。
「うるせェェェェェエエエエエ!!!!」
ものすごい怒号が響くのと、隣の襖が吹き飛ぶのがほぼ同時だった。すぐ近くにいた善逸が襖ごと吹き飛び、もうもうと畳の繊維が舞い上がる。
炭治郎と禰豆子は何が起こったのか分からず呆然としていると、吹き飛んだ襖の向こうから凄まじい怒りの匂いを感じた。
「オイコラ。何勝手に寝てんだよ!!」
汐は吹き飛ばされぐったりしている善逸の胸ぐらを乱暴につかみ、そのまま平手と手の甲で何度も何度も殴打した。手が顔に当たるたびにすさまじい音と衝撃波が発生する。そのせいで、みるみるうちに善逸の顔は腫れあがり鼻血まで噴き出していた。
「や、やめるんだ汐!それ以上やったら善逸が死んでしまう!!」
炭治郎が慌てて止めに入るが、汐が「オメーは黙ってろボケ」と冷たく言い放ちそのまま目を覚ました善逸の顔を凝視する。
青い髪を振り乱し、善逸を睨みつける彼女は般若を通り越した真蛇に近いものになっていた。そのまま汐は落ちていた善逸の刀を拾って足の間に突き刺す。
その形相と行動にに善逸の顔は瞬時に真っ青になり、ガチガチと歯を鳴らしだした。
「お前何やってんの?こんな夜中に騒いで。あたしの睡眠時間を台無しにしやがって。あたしはね、寝る瞬間を邪魔されるのがこの世で4番目に嫌いなのよ。寝付くまで時間がかかるの。わかる?お前のせいであたしは貴重な睡眠時間がどんどん削られてんだよわかるのかこのド畜生ガァーッ!!」
「汐落ち着けぇー!!今はお前が一番騒がしいって!!それに女の子がそんな言葉を使っちゃ駄目だ!!」
「うるせぇえええ!!!あたしの睡眠時間を返しやがえええ!!!」
我を忘れて大暴れする汐を炭治郎は(呼吸を用いて)必死で抑えるが、汐の怒声はなかなか収まらず、結局夜明けまでその声は響いたのであった。