第35章 歪な音色(後編)<肆>
(思っていたより全員重傷だったわね。こんな状態であたしたち、鬼と戦っていたんだ・・・鬼殺隊の元締めって、案外鬼より怖いのかも)
用意された布団に体を横たえながら、汐は一人天井を眺めていた。
今日一日だけでいろいろなことが目まぐるしく過ぎた。善逸と出会い、伊之助と出会い、鬼を沢山斬って子供を救って、救えなかった命もあって――
(そういえば、昔おやっさん言ってたな。生きるってことは覚悟と選択の連続だって。そう。生きている間はきっと何かを選んで何かをあきらめることがたくさんある。今回だってそう。清たちの命は救えたけれど、そうじゃなかった命もたくさんあった)
全ての命を救えるとは限らない
けれど、それでも助けられる命なら助けたい
自分と同じような思いをする人間を増やしてはいけないのだ。
――彼と同じ、悲しみを孕んだ眼をする人間は
目を閉じて脳裏に浮かんだ彼の顔に、汐の頬が熱を持つ。清と善逸に言われた言葉が、汐の胸の中でくすぶった。
(な、なにを考えてるのあたし!も、もう寝よう。起きていたら余計なことばかり考えちゃうから・・・)
心の中で活を入れながら、汐は目を閉じる。しばらくそうしていると段々と意識がまどろみの中に落ちていく。
――善逸の大声にさえぎられるまでは
一方隣の部屋では。
夜になり禰豆子が箱の中から外に出てきて、初めて善逸達に顔を見せた。が、善逸は何を勘違いしたのか炭治郎に対し大声でののしりながら詰め寄った。
「いいご身分だな!!汐ちゃんだけじゃ飽き足らず、こんなかわいい女の子まで連れて両手に花で旅をしてたんだな・・・」
「え?善逸、ちょっと待って・・・」
「俺の流した血を返せよぉぉぉ!!!俺は!!俺はな!!お前が毎日アハハのウフフで女の子といちゃつくためにがんばったわけじゃない!!そんなことの為に俺は変な猪に殴られ蹴られたのか!?」
目を血走らせ涙を流しながら、善逸は炭治郎を指さし激昂する。炭治郎は何を言われているのかわからず、困惑した様子で善逸をなだめようとした。
しかし善逸は聞き入れず、あろうことか刀を抜き放つ始末だった。