第35章 歪な音色(後編)<肆>
「ちょっと炭治郎、あんまり甘やかさないでよ。こういうのは一回許すとつけあがるんだって」
「なんで?俺は別に構わないよ?お腹が空いているんなら仕方がないし。ああ、もしかして汐も食べたかったのか?」
「そういうことを言っているんじゃないのよ。あたしが言いたいのはね、一度でも甘やかしたら取り返しがつかないことになるからやめなさいって言ってるの」
「ええ・・・そうかな?俺は本当に構わないんだけどな」
箸を持つ左手を炭治郎に向けながら、汐は真剣な面持ちで諭すように言う。そんな二人を見て善逸は全身をぶるぶると震わせると、
「夫婦か!!!」
お膳をひっくり返しそうな勢いでそう叫んだ。いきなりの事に汐と炭治郎は肩を大きく震わせ、何事かと善逸を見る。
「何なんだお前ら!子供の教育方針を話し合う夫婦か!!俺の前で仲睦まじい姿を見せるんじゃねえよ!!」
何故か善逸は涙目になりながら二人に詰め寄る。二人はしばらく呆然としていたが、
「ちょっ、あんた何言ってんの!?あたしと炭治郎は別に何も――」
「そうだぞ善逸。俺たちは結婚もしていないし子供もいない。そもそも俺はまだ結婚できる年齢じゃないぞ」
「いや、そういうことを言ってるんじゃねえよ。なんなんだよお前、なんでそんなに論点がずれてんだ」
真っ赤になって否定する汐、真面目な顔で否定する炭治郎、そんな彼をおかしなものでも見るような善逸という構図が出来上がり、蚊帳の外になってしまった伊之助はひたすら吠え続けるのであった。
その後、老女は医者を呼んでくれた。そして診察の結果、汐以外の三人が肋骨を折る重傷。汐自身も肩の傷が開き傷口から細菌が入り膿んでいた。