第35章 歪な音色(後編)<肆>
やがて夜も更け、見事な満月がかかったころ。
鴉が4人を導いたところは、扉に藤の花の家紋が刻まれた家だった。
「カァー!休息、休息!!負傷ニツキ完治スルマデ休息セヨ!!」
「カァ~、オ休ミデスヨォ~。ユックリ休ンデクダサイネェ~」
二羽の鴉がそれぞれの主人に向かってそう告げる。炭治郎と汐は怪我をしたまま鬼と戦ったことを告げるが、二羽ともただ意味深に笑うだけだった。
「はい・・・」
突如家の扉があき、一人の老女が姿を現した。気配がしなかったことに汐は驚き、善逸は顔を青ざめさせ「お化けだ!」と言う。
伊之助に至ってはずかずかと老女に近づき、その頭を人差し指でつつく始末だ。
「鬼狩り様で御座いますね。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。ほら、汐も善逸も固まってないで行くぞ」
他の者を諫めながら、炭治郎は老女の後ろをついていき、彼の後に汐、善逸、伊之助と続く。
炭治郎、善逸、伊之助が同じ部屋をあてがわれ、汐はその隣の部屋をあてがわれた。
いずれの部屋にも着替えの浴衣が用意してあり、それに着替えた後はすぐさま食事が出てきた。(最も食事は老女が気を使ってか、汐も男性陣と同じ部屋でとることになったのだが)
この対応の早さに善逸はたいそう驚き、あろうことか妖怪呼ばわりまでしたため炭治郎がその頭に一撃を入れた。
用意された食事は天ぷら御前であり、それはそれはおいしそうであったが、伊之助の食べ方はとても汚く、両手でつかみむさぼるというもの。あまりの見苦しさに汐はお膳を伊之助から離し、善逸も箸を使うように苦言するほどだ。
と、突然伊之助が炭治郎のお膳からおかずを奪い取った。呆然とする炭治郎に得意げに笑う伊之助と、呆れ変える善逸と汐。
だが、炭治郎は咎めることもせず、あろうことか他のおかずも食べて言いという始末だった。
当てが外れた伊之助は、頭を抱えながら奇声を上げる。その様子を見て、汐は苦々し気に口をはさんだ。