第4章 嵐の前の静けさ<参>
家はあちこちが壊され、赤黒い何かがべっとりとこびりついている。そしてあちこちから上がる火の手、煙、、むせ返るほどの血の匂い。
そして汐の足元には、小さな子供たちの体がバラバラに転がっていた。
「――!!!!」
汐は悲鳴を上げた、が、声が出なかった。周りを見回すと、あちこちに村人だった物が転がっている。
そして、海辺の絹の家があった場所には・・・
「庄吉おじさん!!!」
全身を真っ赤に染めた、庄吉の体があおむけに横たわっていた。
「・・ぅ・・・」
「おじさん!」
まだ生きている!汐はあわてて駆け寄り何とか傷の手当てをしようと試みた。
だが、流れ出ている血の量からもう手遅れだということがわかる。それでも汐はわずかな望みをかけて必死に止血をした。
「おじさんしっかりして!どうしたの!?何があったの!?」
庄吉が何かを告げようと口を開くと、真っ赤な鮮血が勢いよく飛び出し汐の顔に飛沫がかかった。
「ば・・・ば・・・け・・・もの・・・・が、むらを・・・・おそ・・・って・・・・きぬ・・・が・・・あい・・・つが・・・」
「化物!?化物って・・・絹は・・・絹はどこに・・・!?」
しかし庄吉はそれ以上は何も告げることができなかった。眼が、光を失い濁っていく。
ああ、これは、この眼は。命の喪失、――死だ。
「おじさん・・・!」
汐の視界がぐにゃりと歪む。いつも笑顔で村人と接してくれた彼は、もう二度と笑うことはない。その現実に、汐の心が追いつかないのだ。
「そうだ絹。絹を捜さなきゃ。あ、でも、まずはおやっさんを・・・でも・・・!」
どうする。玄海ならこの状況を詳しく知っているかもしれない。だが、絹の無事も確かめたい。汐は迷った。どちらを先に捜すべきか・・・
と、迷っていた汐の耳に、どこからか金切り声が聞こえた。
「この声は・・・絹!!」
間違いない。絹の悲鳴だ。汐はすぐさま悲鳴の聞こえた方へと走り出す。
「誰か・・・誰か助けて!!」
そこには、先ほど見た異形とはまた別の奴らが、絹を抱えてどこかへ連れ去ろうとしていた。