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【鬼滅の刃】ウタカタノ花

第34章 歪な音色(後編)<参>


風がゆったりと吹き、空に浮かぶ雲をゆっくり流していく。
それからしばらくたった後、眠っていた伊之助の目がゆっくりと開いた。それから二度瞬きをした後、突如奇声を上げてばね仕掛けの様に飛び上がった。

「勝負勝負ぅ!!」
「寝起きでこれだよ!一番苦手これ!!」
伊之助は叫びながら、たまたま近くにいた善逸を追い回す。だが、彼は突如その足を止めた。
伊之助の目には、埋葬作業を行っている皆の姿が映っていた。

「何してんだお前等!?」
指をさしながら叫ぶ彼に、炭治郎が「埋葬だよ」と答えた。

「あの屋敷には殺された人が何人かいるの。あんたも運び出すのを手伝いなさいよ」
「生き物の死骸なんか埋めて何の意味がある?やらねえぜ。手伝わねえぜ。そんなことよりそこのでこっぱち!俺と戦え!」

伊之助はそういうと、その人差し指を炭治郎に向ける。彼の思いもよらない言葉に、汐と善逸は思わず固まった。
そんな伊之助を見て炭治郎は、憐みの眼を向けていった。

「傷が痛むからできないんだな?」
「・・・は?」

炭治郎の言葉に、伊之助の顔に青筋が浮かぶ。それに気づいていないのか、炭治郎はさらに畳みかけた。

「いやいいんだ。痛みを我慢できる度合いは人それぞれだ。亡くなってる人を屋敷の外まで運んで土を掘って埋葬するのは本当に大変だし、汐と善逸とこの子たちで頑張るから大丈夫だよ」

そういう炭治郎の声色はいたって真剣だ。真剣に伊之助を気遣って発言している。しかし彼が手伝わないのは傷が痛むからではないということが、炭治郎は根本的にわかっていないのだ。
その論点からずれた発言に、炭治郎以外の者は思わず口を閉ざした。

「伊之助は休んでいるといい。無理言ってすまなかったな」

炭治郎のこの言葉がとどめになったのか、言い終わった瞬間。伊之助は「なめるんじゃねえぞ!!」と怒りを露にした。

「百人でも二百人でも埋めてやるよ!俺が誰よりも埋めてやるわ!!」

そして伊之助はそのまま屋敷の中へ突進していく。炭治郎は心配そうにその背中を見つめていたが、汐は「あれ?ひょっとしてあいつ、結構ちょろいかも?」と小さく呟いた。
それを聞いた善逸の肩が、小さくはねるのにも気づかずに。
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