第34章 歪な音色(後編)<参>
「おいでこっぱち。俺の名を教えてやる。嘴平伊之助だ。覚えておけ!」
「どういう字を書くんだ?」
「字!?俺は読み書きができねえんだよ!名前はふんどしに書いてあるけどな――」
そこまで言いかけた伊之助の動きが止まる。皆が怪訝そうな顔で見ていると、突如彼の眼玉がぐるりと動きそのままあおむけに倒れてしまった。
そしてそのまま白目をむき、口からはごぼごぼと泡を噴き出す。
「うわっ!倒れた!死んだ?死んだ?」
「死んでない。多分脳震盪だ。俺が力いっぱい頭突きしたから・・・」
「あれは本来人間にやる技じゃないからねぇ。この程度で済んで、こいつも運がいいのか悪いのか・・・」
倒れている伊之助を、汐と炭治郎は冷静に分析する。そんな二人を見て善逸は先ほどとは別の意味で怯えて震えていた。
「で、どうするのこいつ。ふん縛って木にでも吊るしておく?」
「脳震盪を起こしているんだから、むやみやたらに動かしちゃだめだ。とりあえず手当てをしよう。みんな手伝ってくれ」
炭治郎の言葉に、汐はやれやれと言った様子でため息をつき、善逸も怯えながらも炭治郎の指示に従った。
気絶してしまった伊之助の頭に汐と炭治郎の羽織で枕を作り、善逸の羽織で掛布団を作りそのまま寝かせる。
それから子供たちに協力を要請し、犠牲となってしまった者たちの埋葬を開始した。
子供達には酷な話だが、何分人手が足りないからだ。