第33章 歪な音色(後編)<弐>
猪男はそう叫ぶと、笑いながら鬼の群れへ突っ込んでいく。その瞬間、鬼たちの体に動きが戻る。が、猪男の攻撃のほうが早かった。
――我流獣の呼吸
参ノ牙・喰い裂き!!
男の日本の刀が鬼の頸を一瞬で吹き飛ばす。それから背後から襲い掛かってきた鬼も、その荒々しい見た目とは裏腹に柔軟な動きで身をかわす。
その独創的な戦い方に、汐は一瞬目を奪われた。
被り物をかぶっているため本来の眼は汐には見えないが、それでも彼女は確信していた。
この男は強い。
そんな中、柱の陰に隠れていた蛇の様に細い鬼が、猪男にかみつこうとしていた。彼はすぐさま反応し、迎撃にかかる――。
だが、その足元にも小型の鬼が一匹男の足に食らいつこうとしていた。
「危ない!!」
汐はすぐさま飛び出し、滑り込むようにして間合いに入り鬼を蹴り上げる。そして飛び上がった鬼の頸をつかむと、その刃を振るった。
それと同時に猪男も蛇のような鬼を葬ったのであった。
その鬼たちで最後だったのか、部屋は元の静けさを取り戻す。汐は緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んだ。
「ふぅ、何とか片付いたみたいね。あんたのお陰で助かったわ。あり――」
汐が礼を言おうと顔を向けたその瞬間。猪男が刀を振り上げ、汐に斬りかかってきた。
汐はすぐさま刀を上げてその一撃を受け止める。そして無理やり押し返すと立ち上がって距離をとった。
「あ、あんた!いきなり何するのよ!!あたしは鬼じゃない、人間よ!!」
だが猪男は聞こえていないのか、汐に再び刃を振り下ろす。ギリギリと鎬の削れる音が響く中、男の口からうれしそうな声が上がった。
「アハハハハ!いいねいいね。強者の気配だ!あんな雑魚共なんかよりずっと楽しめそうだぜ!!」
「あんたは鬼殺隊員でしょ!?隊員同士でやりあうのはご法度なのよ!」
汐が必死に声を上げるも、興奮している猪男にはまるで効果がない。ただひたすら汐に向かって刀を向け続けている。
刀を受け止めていると、右肩の傷が開いたのか激しく疼いた。
せっかく鬼を倒して一息つけると思った汐は、それを邪魔されたことと理不尽に向けられる刃に堪忍袋の緒が切れた。