第33章 歪な音色(後編)<弐>
最初に入ってきた鬼が汐に向かって爪を振り下ろす。だが、汐はそれを紙一重でかわすとすぐさま頸を落とし、後ろから襲い掛かってきた鬼はすぐさま振り返って瞬時に頸を落とした。
稀血である清の血の匂いに当てられてか、鬼は尽きることなく部屋になだれ込んでくる。技を使い、時には体術を使い鬼を葬る汐。しかし鬼の数は彼女が思っていたよりもずっと多い上に右肩の傷が疼くのか、段々と動きが鈍くなって来ていた。
(ちょっとちょっと、どれだけの数が入り込んでいるのよこの家は!流石にきつくなってきたわ・・・!)
だが、ここで汐が倒れてしまえば清たちが鬼の餌食になってしまう。それだけは絶対に避けねばならない。何よりも、炭治郎との約束を違えるわけにはいかない。
疲労と痛みに耐えながら、汐は前を見据える。目を血走らせ、口からよだれを垂れ流す鬼たちを見て汐の体の奥から沸々と怒りが沸き上がってくる。
「その汚い眼をこっちに向けてんじゃねーわよッ!!」
汐が怒りに任せて叫んだ瞬間、鬼たちの動きが止まる。ギリギリと四肢を震わせながら、自分たちが動けないことに戸惑っているようだ。
これには汐も驚いたが、なぜか生まれた絶好の好機を逃す術はない。
汐はすぐさま飛び掛かり、刀を振るおうとしたその時だった。
「猪突猛進!猪突猛進!!猪突猛進!!!」
突如右側の襖が吹き飛び、何かが弾丸の様に突っ込んできて汐が斬ろうとした鬼を吹き飛ばした。埃と畳の繊維が舞い上がり、汐の視界を遮る。
せき込みながらも目を凝らしてみると、そこにいた鬼とは別の存在に汐は目を見張った。
「あ、あんたは・・・!」
そこにいたのは、先ほど善逸と一緒にいたときに見た頭に猪の皮をかぶった上半身裸の男だった。手にはギザギザに刃こぼれを起こした日輪刀を二本持っている。
下半身は長袴を履いているが、よく見るとそれは汐が履いている隊服と同じものであった。
つまり、彼も鬼殺隊の一人だった。