第32章 歪な音色(後編)<壱>
(全く最近の子供は随分ませてるわね。炭治郎があたしの、その、お、想い人、だ、なんて・・・。ありえない、ありえないわよ・・・)
心臓が早鐘の様に打ちなさられ、顔はいまだに熱を持っている。胸の奥から湧き上がってくる感情を何度か押さえつけようとしたその瞬間。
何処からか、まとわりつくような気配を感じた。
「清!てる子!!」
汐は慌てて二人に駆け寄ると、二人を庇うように立った。
近くに鬼がいる。汐の様子からそれを感じ取った二人の表情が瞬時に固まった。
汐はあたりを見回すと、彼らの背後に押し入れらしきものがあるのを発見した。そして二人の耳に口を近づけ静かに告げた。
「落ち着いて。後ろに押し入れがあるでしょう?すぐにそこに隠れて。決して開けちゃ駄目よ」
汐がそう告げると、二人はすぐさま押し入れの中に隠れる。それを横目で確認した汐は立ち上がり、刀を抜き放った。刀身が鮮やかな翠玉色へと変化する。
その刀の感触を確かめるように、汐は左手で回すように刀を振った。
「悪いわね二人とも。ここから先は、15歳以下は閲覧禁止の時間よ」
そう言った瞬間、部屋の向こうに鬼が現れた。それも一匹ではなく何匹かいる。
それを見た汐の口元が、ゆるく弧を描いた。
「まったく、この家の構造はどうなってんだか。欠陥住宅にもほどがあるわよ此畜生!!!」
汐の咆哮と同時に、鬼が一斉に部屋になだれ込む。そして呼吸の低い音と共に、部屋に真紅と翡翠色が舞った。