第31章 歪な音色(前編)<肆>
汐が視線を移動させると、彼の足には血が付いている。汐はここに来る前に正一が血の跡をたどってきたと言っていたことを思い出し、すぐさま傷の手当てを始めた。
傷は深くはないものの小さくはない。残念ながら痛み止めの薬は持ち合わせていなかったため、まずは止血を試みる。
その時、汐の背後で微かに物音が聞こえた。
清は小さく悲鳴を上げ身を固くする。
「大丈夫。あたしの後ろに隠れてて」
汐は刀に手をかけながら、清を庇うように立った。
だが、鬼の気配はしない。となれば、もしかしたら・・・
「この匂いは・・・、汐の匂いだ!!」
汐の耳に聞きなれた声が届いた。それを聞いた彼女はすぐさま刀を下ろし安心させるように清に言う。
「大丈夫よ!あの声は、あたしの仲間の――」
汐が言い終わる前に襖の扉が開かれる。そこに現れた見知った顔に、汐は思わず声を張り上げた。
「炭治郎!!」
「汐!!無事だったか!!」
二人はそのまま駆け寄り再会を喜ぶ。そして炭治郎と一緒にいたてる子は、兄の清の姿を見つけると泣きながら飛びついた。
「清、紹介するわ。この人はあたしの仲間で兄弟子の・・・」
「竈門炭治郎だ。彼女と一緒に悪い鬼を退治しに来た」
炭治郎は安心させるように言うと、清に傷の具合を見せるように言った。
鱗滝からもらった薬を刷り込み、汐が持っていた包帯を丁寧に巻いていく。手当てが終わった後、炭治郎と汐は清に何があったのか尋ねた。
清の話を要約すると、鬼に連れ去られた後食われそうになったところを他の鬼が現れ、彼を狙って殺し合いを始めた。
その際に身体から鼓の生えた鬼がほかの鬼にやられた際に鼓を落とし、清がそれを拾って叩いたら部屋が変わったという。
その鬼に炭治郎は心当たりがあった。この屋敷の主で、清をさらった張本人だ。
「そういえば、あの鬼は【稀血】。そんなことを言っていたな」
炭治郎の言葉に清が反応する。彼もその鬼が自分のことをずっとそう呼んでいたことが気になっていたのだ。
すると
「カァーァ!!稀血トハ、珍シキ血ノ持チ主デアル!!」
何処からか現れた炭治郎の鎹鴉、天王寺松右衛門が声を上げる。いきなりの事に兄妹は勿論汐も小さく悲鳴を上げた。