第31章 歪な音色(前編)<肆>
その屋敷の鬼は、焦っていた。自分の縄張りを侵されたから、だけではない。やっと見つけた獲物を横取りされそうになった挙句逃げられたからだ。
おまけに鬼狩りが数人入り込んでいる。これ以上ない程、【彼】は焦っていた。
ただでさえ人を食らえず、【あの方】から数字をはく奪され捨てられてしまった彼。血の力で以前よりも格段に強くなり、十二鬼月として認められた。
そしてこれからも人を食らい、強くなれると信じていた。
――そう、信じていた・・・
だからこそ、彼は捜していた。珍しい血の持ち主、【稀血】の人間を。
それを食らい、また十二鬼月に戻るために・・・
自分を、認めてもらうために・・・