第30章 歪な音色(前編)<参>
襖を開けた瞬間、再び聞こえてきた鼓の音によって汐は仲間と分断されてしまった。
突如一人になってしまった彼女の心に、じわじわと不安が広がる。が、この家のどこかで頑張っている彼らを思い、汐は自分の頬を打ち奮い立たせた。
鬼の襲撃を警戒し、刀を抜き放ちながら前に進む。すると少し先に何かが落ちているのを見つけ、何かと思い近づくと。それは
食い散らかされた人間の死体だった。
(ここにも、か)
汐は妙に冷静に、その横たわった人を見た。もう何度も見てきた、人間だったもの。すでに命が終わった人間の抜け殻。
理不尽に奪われてしまった命を目の前にして、彼女はやるせない気持ちになる。彼らの無念を果たすためにも、鬼を何とかしなければならない。
その時、近くで鼓を打ち鳴らす音がした。が、自分のいる位置は変わっていないように見える。おそらくだが、部屋の構図が変わる仕組みなのかもしれない。
それに、鬼の気配はしないようだ。
汐は気配を殺しながら足を進める。音はどんどん近くなり、ついにその主がいる部屋へとたどり着いた。
汐は意を決して襖を開ける。すると、そこにいたのは―――