第30章 歪な音色(前編)<参>
「急に死んでるよ!!なんなの!?もうヤダ!!!」
ぎゃあぎゃあと喚き散らす善逸と汐の視線がぶつかる。そして何を勘違いしたのか、彼は汐に飛びつきぎゅっと抱きしめた。
「汐ちゃあああん!!ありがとおお!!!君は命の恩人だ、女神だ!!やっぱり結婚しよう!!」
「寄るな触るな抱き着くなうっとおしい!!!!それにあたしは今来たばかりで鬼なんて斬ってないわよ!!」
「・・・へ?」
善逸を引きはがしながら汐が叫ぶと、善逸は素っ頓狂な声を上げる。それから嘘だ嘘だという善逸に、汐は先ほどの出来事を説明した。
が、何を言っても善逸は自分が鬼を倒したことを信用せず、それどこか正一が鬼を倒したと思い込み彼に縋りつく始末だ。
そのあまりの体たらくに呆れかえった二人は、考えるのをやめた。
「さて、疲れているところ悪いけれど先へ進みましょう。さっきの騒ぎで鬼に見つかったら大変だもの。善逸もいつまでも正一に引っ付いてないで、行くわよ」
そう言って汐は襖をあけて足を踏み入れる。その姿を見た善逸は慌てて立ち上がると、正一の手をつかんで襖を開ける。
だがそこに汐の姿はなかった。
「・・・は?」
目の前で怒ったことが分からず、善逸の思考が停止する。そしてみるみるうちに顔が青ざめ汗が噴き出し、涙があふれる。
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。君まで、君まで俺を置いて行っちゃうのかよ・・・う゛・じ・お゛ぢゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!!!!」
善逸のこれ以上ない程の汚い高音が、家中に響き渡った。