第3章 嵐の前の静けさ<弐>
(一応待ち合わせ場所を記した紙はもらってきたけれど・・・これ、どう見ても路地裏・・・だよね)
汐の持っている紙には、かなり大雑把な地図が描かれていたが、その目印へ延びる道がどう見ても大通りのものではなかった。
奇病を治す薬、などというものが正規の医者の処方するものではないことは汐も薄々感じていたが、やはりもう少し詳細を聞いておくべきだったのかと少し後悔した。
やがて汐は地図に記された場所へ着く。そこには人影はなく、町の喧騒がうそのように小さく聞こえた。
(本当にここ、だよね。あたし騙されてないよね?もしそうだったとしたら、絶対に許さないからね)
そんなことを考え、両手拳を強く握る。
すると突如、足元で猫の鳴く声が聞こえた。
汐が視線を移すと、そこには一匹の三毛猫が汐を見上げていた。
(猫・・・?)
よく見ると背中には袋のようなものを背負っており、首の下には不思議な文様が描かれた紙が貼り付けてあった。
「もしかしてあんたが薬を持ってきてくれたの?」汐が話しかけると、猫はそうだというように尻尾を立てた。
にわかには信じがたかったが、猫は汐を見あげたまま動こうとしなかった為、信じることにした。
袋をそっと開けると、そこにはてのひらに収まるくらいの小瓶が一つ入っていた。中には、濃い紫色の液体が入っている。
(これが・・・おやっさんの病気を治す薬・・・なんだか、怖いな)
想像していたものよりも禍々しい色をした液体に、汐は少し寒気を感じた。だが、これを渡せば玄海はきっと治る。日がさす道を歩ける。
「ありがとう。お金はここに入れればいいんだね」汐は預かってきた薬代を猫の袋の中に入れた。
すると猫はそのままくるりと背を向け、あっという間に姿を消した。
その姿を汐はしばらく呆然と見守っていたが、目的は済んだので路地裏から外に出た。