第29章 歪な音色(前編)<弐>
「・・・え?」
一瞬何が起こったかわからず、汐が素っ頓狂な声を上げる。だが、すぐに理性を取り戻すと部屋に向かって声を上げた。
「炭治郎!?炭治郎何処!?」
汐が呼ぶが炭治郎が答えることはなく、その代わりに何度か鼓の音が響き、部屋が次々と変わっていく。
「う、嘘・・・だろ・・・?」
目の前で起こった光景が信じられず、善逸が絶望した声を上げる。そばにいた少年も青ざめながら汐のそばに寄り添った。
(どうなっているの・・・?まさかこれが、鬼の血鬼術・・・!?)
「あんたたち!下手に動いたら危険よ。ここは無理に動かないで・・・」
汐は後ろを振り返ると二人にそう告げた。
だが
「死ぬーーーッ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれは死ぬーっ!!炭治郎と離れちゃったぁあ!!」
「てる子!てる子!!」
善逸は泣きわめき、少年は青ざめた顔で妹の名前を何度も呼ぶ。その大声に焦った善逸が少年に飛びつき大声を上げないように制止させる。
「だめだめ大声出したら駄目!大声出して悪い奴らに聞かれたら大変だよ!汐ちゃん、ちょっと外に出よう!!」
「あんた人の話聞いてた?無理に動くなって・・・」
汐が口を挟もうとした途端、少年は蔑むような眼で善逸を見下ろしながら言った。
「なんで外に?自分だけ助かろうとしてるんですか?死ぬとかずっとそういうこと言って恥ずかしくないんですか?年下に縋りついて情けないと思わないんですか?あなたの腰の刀は何のためにあるんですか?」
少年の容赦ない言葉の刃にめった刺しにされた善逸は、何故か口から血を噴き出して倒れた。
そんな彼を見て、汐は(この子将来大物になるわ)と妙な関心を覚えた。
「違うんだよ!俺じゃ役に立たないし汐ちゃんも怪我をしていて無理はさせたくないから人を、大人の人を呼んで来ようとしてるんだよ!!子供だけでどうにかできることじゃないからこれは!!」
善逸はそう言いながら少年を引きずるようにして玄関へ向かう。そのあとを慌てて負う汐。だが、善逸が玄関の扉を開けたその先には。
――また別の部屋がそこにあった。