第29章 歪な音色(前編)<弐>
「善逸。ちょっと申し訳ないが、前の戦いで俺は肋と足が折れているし、汐も右肩を斬っている。そして俺たち二人ともまだ完治していない。だから――」
「えええーーーッ!?なに折ってんだよ骨!折るんじゃないよ骨!斬るんじゃないよ肩!怪我人二人じゃ俺を守り切れないぜ!!ししし死んじまうぞ!!ヒャッ!どうすんだどうすんだ!?死ぬよこれ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!ヒャーーーッ!二人共怪我してるなんて酷いあんまりだぞ!死んだよ俺!!九分九厘死んだーッ!!」
善逸が再び涙と鼻水を垂れ流しながら死ぬ死ぬと連呼し、二人の足元で転がりまわる。それがあまりにも喧しくて、汐の額に青筋が浮かび怒りの匂いが漂う。
このままでは汐が善逸を殴り飛ばしかねないと判断した炭治郎は、慌てて善逸を落ち着かせようと試みた。
「善逸、静かにするんだ。お前は大丈夫だ」
「気休めはよせよぉおーー!!」
しかし善逸は炭治郎の言葉を聞き入れず、激しくのたうち回り暴れだす。
「違うんだ。俺にはわかる。善逸は――、駄目だ!!」
突然炭治郎が声を荒げると、善逸は耳をつんざくような悲鳴を上げる。汐が反射的に顔を上げた先には、先ほどの兄妹がこちらへ向かってくるのが見えた。
「あんたたち何してるの!?入ってきちゃ駄目よ!!」
汐が鋭く言うと、少年は炭治郎を見ながら震える声で訴えた。
「お兄ちゃん、あの箱カリカリ音がして・・・」
「だ、だからって置いてこられたら切ないぞ。あれは俺の命より大切なものなのに・・・」
炭治郎が切なげな声でそう言った瞬間。どこからかミシミシときしむ音が聞こえてきた。
少女は小さく悲鳴を上げて炭治郎に飛びつき、善逸はしばらく震えた後大声で悲鳴を上げて体をかがめた。
その反動で尻が炭治郎と少女に当たり、近くにあった部屋に押し込んでしまう。
「あ、ごめん。尻が――」
だが、善逸が言い終わる前に鼓の音がどこからか聞こえ、それと同時に炭治郎たちの姿が消えた。