第28章 歪な音色(前編)<壱>
(さすが炭治郎。小さい子の相手はお手の物ね。って、あたしはよく小さい子供にからかわれてたからこういうの向いてないかも)と、汐は心の中で考えながら涙目で目をそらした。
「何があったか話せるか?」
「あの家はあんたたちの家?」
炭治郎と汐が優しく尋ねると、少年が声を詰まらせながら首を横に振った。
「ちが、ちがう。こ、ここは・・・」
――ば、化け物の、家だ・・・
少年の言葉に汐と炭治郎の眼が鋭くなる。化け物というのは、二人が探知している鬼の事だろう。
少年はつづけた。
「兄ちゃんが連れていかれた。夜道を歩いていたら、見たことのない大きな化け物が現れて、俺達には目もくれないで兄ちゃんだけ・・・」
「あの家に入ったんだな」
炭治郎の言葉に少年は震える声でうなずいた。その恐怖がよみがえってきたのだろう。二人の目にみるみるうちに涙がたまった。
「で、二人で後をつけてきたってことね。まったく、怖いもの知らずというか無茶というか・・・」
「汐。そんな言い方は・・・」
「って言いたいところだけど、えらかったわね。怖かったでしょう?」
汐は優しい声色でそういうと、二人の目から涙があふれだす。汐は懐から小さな手ぬぐいを出すと、二人の涙を優しくぬぐった。
(言葉は少しきついけれども本当は心が優しいんだよな、汐は。善逸には容赦ないけど)
そんな彼女の背中を、炭治郎は慈しみを込めた眼で眺める。
「兄ちゃんの血の跡をたどったんだ。怪我をしたから・・・」
「怪我。血の跡が付くほどの怪我って、穏やかじゃないわね」
汐が顔をしかめると、二人の顔が再び青ざめる。そんな彼らに、炭治郎は安心させるように言った。
「大丈夫だ。俺たちが悪い鬼を倒して兄ちゃんを助ける。なあ、汐?」
「もちろんよ。あたしたちに任せて」
汐と炭治郎の力強い言葉に、子供たちの眼に希望の光が宿る。それを見た汐の心に、決意の灯がともった。