第28章 歪な音色(前編)<壱>
三人は鴉に導かれながら、深い山の中を進む。汐と炭治郎は慣れているのか軽快な足取りで進むが、善逸は腰が引けたまま恐る恐るついてくる。
「なあ炭治郎~、汐ちゃん~。俺じゃやっぱり無理だよぉ~。俺がいたって何の役にも立てないしさァ~」
だが汐達はそれには答えず、ひたすら前を進む。汐は鬼の気配を、炭治郎は鬼の匂いを感知しているため二人の顔に緊張が走る。
やがて木々が少なくなり、開けた場所にたどり着く。そこには山の中には似つかわしくない一軒の家が建っていた。
「こんなところに、家?物好きでも住んでるのかしら?」
汐が見上げながらそういうと、炭治郎は首を横に振りながら答えた。
「それはわからないけれど、血の匂いがする。でも、この匂いは・・・今まで嗅いだことのない匂いだ」
「え?何か匂う?それより、何か音がしないか?あとやっぱり、俺たち共同で仕事するのかな?」
善逸の言葉に、汐と炭治郎は怪訝そうな顔で彼を見た。汐は気配はぼんやりと感じるものの、音など聞こえない。それは炭治郎も同じだった。
「音?音なんて・・・」
汐が顔を動かすと、視界の端に何かを見つけた。目を凝らしてよく見ると、それは二人の子供だった。
一人は桃色の着物を着た幼い少女で、もう一人は青い羽織を纏った少女よりも年上そうな少年。二人とも目を見開き、体を震わせた。
「炭治郎、あそこ」
汐は炭治郎の羽織を引き、子供たちの存在を知らせる。善逸も気づいたようで、炭治郎と同じ方向に視線を向けた。
「こ、子供だ」
「どうしたんだろう?こんなところで」
「迷子かもしれないわね。声をかけてみましょ」
汐と炭治郎は二人の子供の下へ足を進める。炭治郎がどうしたのかと聞くと、二人は抱き合ったまま体を震わせ怯え切った眼で汐達を見ていた。
(かなり怯えている。これじゃあ何があったか聞けそうにないわね。何か、何か二人を落ち着かせる方法はないかしら・・・)
汐がイラついた様子で両手をよじると、炭治郎は子供たちの目線に合わせてしゃがみ込む。そして善逸の雀を手に乗せてあどけない声色で言った。
「じゃじゃーん!手乗り雀だ!可愛いだろ?」
手の上の雀はちゅんちゅんとかわいらしい声で鳴きながら小さく飛び跳ねる。その愛らしい姿に、汐の口元が思わず緩んだ。
その空気に子供達の表情がわずかに緩み、そしてへなへなと座り込んだ。