第28章 歪な音色(前編)<壱>
それから少し時間がたち、善逸は炭治郎からもらったおにぎりをかじりながら、汐達と共にあぜ道を歩いていた。
「鬼が怖いっていう善逸の気持ちもわかるが、雀を困らせたらだめだ」
「え?困ってた?雀?」
善逸は意味が分からないと言った様子で炭治郎をみる。そんな彼に、汐が補足するように言った。
「炭治郎は雀の言葉が分かるみたいなの。あたしにはさっぱりだけれど」
「はあ!?言葉が分かるって嘘だろ!?なんて言ってたんだよ雀は?」
「いや、『善逸がずっとあんなふうで仕事にも行きたがらないし、女の子に直ぐちょっかい出す上にイビキもうるさくて困ってる』って言ってるぞ?」
炭治郎は手の上に乗っている雀を指さし、困ったような声色で伝える。雀もそうだと言わんばかりにちゅんと一声鳴いた。
「嘘だろ!?俺をだまそうとしてるだろ!?」
「それはないわ。炭治郎はどうしようもなく嘘がへたくそで、詐欺とかにも平気で引っ掛かりそうなバカなんだから」
「いやそれ褒めてないよな!?というか、汐。お前最近随分と辛辣になってないか!?」
三人が声を荒げていると、上空に二羽の鴉が飛び交った。そして、三人に向かって声高らかに叫ぶ。
「カァ!!駆ケ足!駆ケ足!炭治郎、汐、善逸!走レ!」
「カァ~カァ~。一緒ニ向カッテ下サイネェ~。三人一緒デスヨォ~!」
「ぎゃあああ!!!鴉が喋ってるぅううう!!」
鴉の口から出てきた人語に、善逸の体が震えたかと思うと、突如体をそらしながら恐怖の叫び声をあげた。