第28章 歪な音色(前編)<壱>
「おまっ、おまっ!!お前ふざけてんじゃねえぞおおお!!」
善逸は急に立ち上がると、炭治郎の胸ぐらをつかんで唾を飛ばしながら捲し立てた。
「俺の結婚を邪魔しておきながら、お前は女の子と仲良く二人で旅してんじゃねえかあああ!!!」
「「えっ!?」」
「この○▼※△☆▲で※◎の★●が!!!」
彼の言葉は途中から何を言っているのかわからなくなっているほど滅茶苦茶になった。が、汐は驚愕を顔に張り付けたまま善逸に尋ねた。
「あ、あんた・・・今あたしの事女って言った?あんたあたしが女だってわかるの?」
汐の言葉に善逸は怒りながらも「どこからどう見たって女の子でしょうが!!」と頭から湯気を噴き出しながら答えた。
その言葉に、汐は驚きつつもうれしさがこみ上げる。今まで生きてきて初見で女だと見抜かれたことが炭治郎以外になかったので、思わず涙が出そうになった。
だが、汐は知らなかった。炭治郎が汐を女だと知っていたのは、ある小さな事故であることに。
善逸の怒りは収まらないのか、ついには炭治郎を激しく揺さぶる。このままでは善逸が隊律違反になってしまうことを危惧した汐は、そっと彼の胸ぐらをつかんだ。
「自分で黙るか物理的に黙るか、今すぐ選んで?」
可愛らしい笑みを浮かべる反面、ぞっとするような低い声に善逸はは悲鳴を上げて青ざめる。今度は汐が隊律違反になってしまうことを恐れた炭治郎は、慌てて汐を善逸から引きはがした。
傍らでは二羽の鴉と雀が、何やら会話のようなものをしているのであった。