第28章 歪な音色(前編)<壱>
「何やってるんだ道の真ん中で!その子は嫌がっているだろう!そして雀を困らせるな!!」
珍しく声を荒げる炭治郎に、黄色の少年は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のままゆっくりと視線を向ける。そして何かを思い出したかのようにはっとした表情をした。
「あ、隊服。お前は最終選別の時の・・・」
だが、炭治郎は間髪入れずに彼の言葉を否定した。
「お前みたいなやつは知人に存在しない!知らん!!」
「ええええ!?会っただろうが!会っただろうが!!お前の問題だよ!記憶力のさ!!」
少年の大声を聞いて、汐の記憶がよみがえった。最終選別の際、震えながらひたすら不吉な言葉を唱えていた、全身黄色の少年の姿を。
(ああ、そういえばいたな。こんなの)
だがだからと言ってなんだという話なのだが。
炭治郎はつかんでいた少年を落とすように話すと、彼と女性の間に立つようにして彼女に向き合った。
「さあもう大丈夫です。安心して家に帰ってください」
「はい。ありがとうございます」
少年に絡まれていた女性に、炭治郎は優しく声をかける。頭を下げてお礼を言う彼女に、少年の叫び声が再び響いた。
「おいいーーーっ!!!お前邪魔すんじゃねぇよ!!その子は俺と結婚するんだ!!俺のことが好きなんだから、な゛っ!!!」
少年の言葉は続けられることはなく、突如振り下ろされた女性の平手打ちによって遮られた。
女性は叫び声をあげながら何度も何度も少年を殴打する。少年は頭を押さえながら、痛い痛いとうめき声をあげた。
このままではまずいと炭治郎は女性を羽交い絞めにして引きはがす。少年は顔に真っ赤な手形を付けたまま、再び泣き喚いた。
「いつ私があなたを好きだと言いましたか!?具合が悪そうに道端でうずくまっていたから声をかけただけでしょう!?」
「ええええ!?俺のこと好きだから心配して声をかけてくれたんじゃないのぉお!?」
「私には結婚を約束した人がいますので絶対にありえません!それだけ元気なら大丈夫ですねさようなら!!」
女性は頭から湯気を噴き出しながら歩いていく。項垂れる少年を見て、汐は(うわぁ、こいつ勘違い男か・・・)と心の中で蔑んだ。