第27章 襲撃<肆>
そしていよいよ、別れの時。
愈史郎は痕跡を消してからこの地を離れると言い、炭治郎たちにさっさと行くように促す。
「本当にお世話になりました、珠世さん、愈史郎さん」
「私達こそ、あなた方には助けられました。本当にありがとう。武運長久を祈ります」
そう言って珠世はにっこりとほほ笑んだ。そして汐に向き合うと、少し目を伏せる。が、
「もうそんな顔をしないで。貴女がいなければ、おやっさんはとっくに鬼になって人を襲っていたかもしれない。そしてあたしは何も知らないまま、のうのうと生きていたかもしれない。ありがとう珠世さん。おやっさんの人間としての誇りと魂を守ってくれて」
汐がそう言った瞬間、珠世の目が見開かれた。今にも泣きだしそうな彼女に、汐はそっと手を握る。
「だからこれからも、医者として人を助けてあげてください。そして必ず、鬼を人に戻す薬を作ってください。あたしみたいな人間を増やさないためにも」
「わかりました、約束します。必ず、私たちは治療薬を完成させて見せます」
「どうか、お元気で」
汐と炭治郎は二人に頭を下げると、禰豆子を入れる箱を取りに行く。と、その時。
「炭治郎」
今まで決して呼ばなかった炭治郎の名前を、愈史郎が初めて呼んだ。
そして
「お前の妹は、美人だよ」
そっぽを向いたまま、愈史郎はぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。そんな彼に、炭治郎は心の底からうれしそうに笑った。