第27章 襲撃<肆>
「ひっ!」
汐が思わず悲鳴を上げる。毒々しい色をした腕は血でぬらぬらと光っている。
その異様すぎる光景に汐と炭治郎は勿論、愈史郎ですら真っ青な顔で呆然としていた。
口から生えてきた腕がぐるりと動き、朱紗丸の頭をつかんだかと思うと躊躇なく握りつぶす。骨と肉が砕け散る音と共に、真っ赤な鮮血が飛び散った。
「うっ、ぐ・・・ぅぇ!」
汐は右手で口を押えて下を向く。込みあがってくる苦くてすっぱいものを必死にこらえようと目を固く閉じる。
バキバキと音を立てながら朱紗丸の体を砕きつぶしていく光景に、炭治郎と愈史郎は呆然とその光景を見つめ、珠世は目をそらし、禰豆子は術が効いているのかふらふらとしていた。
やがて周りは血の海となり、あちこちには朱紗丸の体の一部が転がっている。その中には彼女の黄色い目も落ちていた。
バラバラになった体に、珠世はそっと近づいた。その顔には、これ以上ない程の悲しみが宿っていた。
「死んでしまったんですか?」
炭治郎がおずおずと尋ねると、珠世は「まもなく死にます」とだけ答えた。これだけの状態になりながらもまだ息絶えていないという事実に、二人は息をのむ。
「これが【呪い】です。鬼舞辻の名を口にすると、体内に残留する細胞に肉体が破壊されること。基本的に鬼同士の戦いは不毛です。意味がない。致命傷を与えることができませんから。陽光と、鬼殺の剣士の刀以外は」
ただ、鬼舞辻は鬼の細胞が破壊できるようです・・・
その言葉を聞いた二人は目を伏せる。あまりにも悲しく、あまりにも理不尽で、胸が引き裂かれそうに痛んだ。
不意に足音がして二人が顔を上げると、愈史郎が駆け寄ってきて二人の口に布を押し付けた。
「珠世様の術を吸い込むなよ。人体には害が出る。わかったか!」
二人はそのままこくこくとうなずいた。
「炭治郎さん、汐さん。この方は十二鬼月ではありません」
「!?」
驚く二人に、珠世は転がっている眼球を指さして言った。
「十二鬼月は眼球に数字が刻まれていますが、この方にはない。おそらくもう一方も十二鬼月ではないでしょう。弱すぎる」
「弱すぎる!?」
「あれで!?」
二人はさらに驚愕した。あれだけ強かった鬼が弱すぎるという事実に、背筋がうすら寒くなった。