第27章 襲撃<肆>
「何を言う貴様!」
声の主は朱紗丸で、彼女の前には禰豆子、愈史郎、珠世が立っている。珠世は一歩前に進むと凛とした声で告げた。
「あの男はただの臆病者です。いつも何かにおびえている」
「やめろ!貴様、やめろ!!」
朱紗丸は狼狽えながら声を荒げる。そんな彼女の様子を気にすることもなく珠世はつづけた。
「鬼が群れることができない理由を知っていますか?鬼が共食いをする理由を。鬼たちが束になって自分を襲ってくるのを防ぐためです。そのように操作されているのです。貴女方は」
「黙れ、黙れ黙れ黙れーーっ!!あの御方はそんな小物ではない!!」
朱紗丸は頭を振りながら激昂し、さらに声を荒げる。その時、愈史郎は気づいた。珠世が術を使っていることに――
「あの御方の力はすさまじいのじゃ!だれよりも強い!!鬼舞辻様は――」
朱紗丸がそう口にした瞬間、青ざめた顔で慌てて口をふさいだ。
珠世が使っているのは【白日の魔香】という血鬼術で、脳の機能を低下させ虚偽や秘密を守ることが不可能となる、いわゆる強力な自白剤のようなものだ。
「その名を口にしましたね。呪いが発動する。かわいそうですが、さようなら」
珠世が恐ろしい程の低い声で、しかし悲しげな顔でそう告げると、朱紗丸は悲鳴を上げながら逃げ出そうとした。
「お許しください、お許しください!!どうか、どうか許してええええ!!!」
みるみるうちに朱紗丸の体が黒く染まり、そして激しく苦しみだす。持っていた毬の一つが転がり汐と炭治郎の足元で止まる。二人は、何が起こっているかわからず呆然としていた。
すると、朱紗丸の腹部が不自然に盛り上がったかと思うと、その口と腹部から巨大な腕が三本。血しぶきを上げながら生えてきた。