第25章 襲撃<弐>
汐の体は瞬時に横に飛び、石の壁に叩きつけられる。だが、汐は当たる寸前に呼吸で受け身をとったため大事に至らずに済んだ。
(い・・・痛い!これはまるで、おやっさんにぶっ飛ばされて水面に叩きつけられた時と似たような感覚!!)
などと微妙な回想をしている汐をしり目に、矢琶羽は朱紗丸に顔を向けていった。
「朱紗丸よ。そちらにいるのは【逃れ者】の珠世ではないか。これはいい手土産じゃ」
「そうかえ!!」
朱紗丸は倒れている汐に向かって渾身の力で毬を投げつける。痛みで反応が遅れた汐に、逃げるすべはない。
(殺られる!)と思った瞬間、誰かが割って入り汐の体を抱えて転がった。
直ぐ脇で毬があたり、石壁が崩れる。瓦礫が降り注ぐ中、汐が目を開けるとそこにいたのは。
「禰豆子!?」
禰豆子が汐を庇うように前に立ち、朱紗丸を鋭い目で睨みつけている。禰豆子がいなければ、今頃汐はひき肉になっていたことだろう。
「あ、ありがとう禰豆子。助かったわ」
汐が礼を言うと、禰豆子は優しい眼を彼女に向ける。だが、すぐに戦闘態勢に入ると、朱紗丸に向かって走り出した。
「面白いのう!面白いのう!」
朱紗丸は笑いながら、今度は地面に毬を当てて軌道を変えながら禰豆子を狙う。禰豆子はその毬を蹴り返そうと足を上げた。が。
「蹴ってはだめよ!」
珠世の鋭い声が響く。だが、足を上げた禰豆子は止めることができず、蹴ろうとした足が毬の威力に耐え切れず千切れ飛ぶ。
倒れた隙を狙って朱紗丸が禰豆子を蹴り飛ばすと、禰豆子の体は壊れた建物の中へ吹き飛んでしまった。
「禰豆子!!」
汐が悲痛な叫び声をあげる。珠世はすぐさま禰豆子を追って建物の中へ戻っていった。