第24章 襲撃<壱>
そう言って彼女は毬を投げてきた。数が増えた毬はそのままの威力であちこちを飛び回る。その破壊力は、先ほどの比ではない。
(ここで私の術を使うと、お二人にもかかってしまう。愈史郎も攻撃に転ずるには準備が必要・・・)
珠世と愈史郎が動けない中、汐と炭治郎は毬を必死でよけ、よけきれないものは刀ではじく。
だが、いくらよけても弾いても、毬は生き物のような動きで二人を襲ってくる。
毬を斬れば威力はぐんと落ちるが、それでも攻撃の意思を弱めることはなく二人の体を穿つ。
(鬼の気配はアイツのほかにもう一匹。そいつがこのからくりを起こしてる可能性がある)
でも、汐の気配を感じる力は、炭治郎と異なり正確な位置まではわからない。だからこそ、彼の力が必要だ。
(きっと炭治郎なら位置も正確にわかっているはず。何とか、彼だけでも外に出すことができれば・・・)
しかし汐の願いに反して、毬の速さはどんどん増し、そしてついに、珠世と愈史郎の体を深く抉り取った。
自分たちの身を守ることに精いっぱいで、二人を庇う余裕すらない。
「私たちは治りますから!気にしないで」
「おい、間抜けの鬼狩り共。【矢印】を見れば方向が分かるんだよ。矢印をよけろ!」
血まみれになった愈史郎が叫ぶが、二人には何を言っているのかよくわからない。見えているのは毬だけだ。
「ったく、そんなのも見えんのか。俺の【視覚】を貸してやる。そうしたら毬女の頸くらい斬れるだろう!!」
そうって愈史郎は懐から二枚の紙のようなものを取り出すと、二人に向かって投げつけた。紙は二人の額に吸い付くように飛び、ぴったりと張り付くとあの文様が浮かび上がった。
その瞬間。汐と炭治郎の目に先ほどは見えなかった赤い矢印が見えた。
毬は矢印に合わせるように飛んでいる。これが、あの不規則な動きの正体だった。