第23章 遭遇<肆>
「はい、存じております。そして、彼にあれを送ったのも、この私です」
その言葉を聞いた瞬間、汐の体が震える。体の奥から湧き上がる殺意に耐えようと、汐はぎゅっと唇をかんだ。
「教えて。どうやっておやっさんのことを知っていたのか。そして、何故あの毒をおやっさんに薬と称して送ったのか」
汐の声は冷静さを装っているが、炭治郎は彼女が必至で感情を抑えていることが分かった。だが、それ以上に彼の頭は混乱していた。
人を助け、人を治そうとしている珠世が、汐の養父を殺す毒を送ったという矛盾する事実に、頭が追いついていかないのだ。
「わかりました。お話ししましょう。少し、長くなるかもしれませんが」
そう言って珠世は語りだした。大海原玄海が、何故彼6月分女たちとかかわりを持つことになったのか。
「彼、玄海さんと初めて出会ったのは、およそ16年ほど前です。そのころには既に、彼は鬼にされていました」
汐の肩が大きくはねた。その話が確かなら、汐が玄海に出会った頃には既に鬼になっていたことになる。
だが、そのころの玄海は日の光に当たることはできなかったものの、人を食らったりするようなことはなかったはずだ。
汐の心を察したのか、珠世は彼女を見据えて口を開く。
「しかし、どういうわけか彼にははっきりとした自我があり、しかも食人衝動もかなり抑えられていたのです。今までそのような者にあったことがなかった私は、大変驚きました。私はすぐさま彼を受け入れました」
その後、珠世と愈史郎の献身的な処置により、玄海は人血を摂取することで自我を保てるまでになっていたという。本来ならありえないその事実に、当時の彼女たちはたいそう驚いたことだろう。