第157章 不滅<弐>
「彼らはずっと君を睨んでいるよ。絶対に逃がすまいと」
それから、と言いたげに、輝哉は表情を緩めながら言葉を紡いだ。
「私を殺した所で、鬼殺隊は痛くも痒くもない。私自身はそれ程重要じゃないんだ。この・・・人の想いとつながりが、君には理解できないだろうね、無惨。なぜなら君は・・・、君たちは」
――君が死ねば、全ての鬼が滅ぶんだろう?
その言葉に、無惨は思わず目を見開いた。
「空気が揺らいだね・・・。当たりかな?」
「黙れ」
無惨は視線を鋭くすると、静かに輝哉の元へと近づいた。
「うん、もういいよ。ずっと君に言いたかったことは言えた」
輝哉は臆することもなくそう言い、あまねはそんな夫の傍を離れまいと寄り添っていた。
「最期に・・・、ひとつだけいいかい?」
輝哉は無惨を見上げながらそう言った。
無惨が怪訝な顔をすると、輝哉は相も変わらず静かに言葉を紡いだ。
「私自身はそれ程重要でないと言ったが・・・、私の死が無意味なわけではない。私は幸運なことに鬼殺隊・・・、特に柱の子達から慕ってもらっている」
輝哉の声は最初の時とは別人のように、はっきりと無惨の耳に届いていた。
「つまり私が死ねば、今まで以上に鬼殺隊の士気が上がる・・・」
それは、彼からの最後の警告だった。
気づいているのかそうでないのか。無惨は鋭い左手の爪を輝哉に向けながら言い放った。
「話は終わりだな?」
「ああ・・・。こんなに話を聞いてくれるとは思わなかったな・・・」
心底くだらないと言いたげな無惨の声とは対照的に、輝哉は心から嬉しかったと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「ありがとう、無惨」
まるで友人と別れるような声色で、輝哉は感謝の言葉を述べた。