第157章 不滅<弐>
酷く冷たい風が、二人の間を静かに通り過ぎていく。
「ついに・・・私の・・・元へ来た・・・」
輝哉のかすれた声は、風に乗って静かに響いた。
「今・・・目の前に・・・、鬼舞辻・・・無惨」
だが、その名を呼ぶ声は、とてもはっきりとしていた。
「我が一族が・・・鬼殺隊が・・・、千年・・・追い続けた・・・鬼・・・」
輝哉はそういうと、視線だけを妻がいるであろう方向に向けた。
「あまね・・・。彼は・・・どのような・・・姿形を・・・している・・・?」
夫の言葉に、あまねは無惨から視線を逸らさないまま答えた。
「二十代半ばから後半あたりの男性に見えます。ただし瞳は紅梅色。そして瞳孔が猫のように縦長です」
あまねは声を震わせることもなく、淡々と無惨の外見的特徴を口にした。
「そうか・・・」
輝哉はそう答えると、言葉を途切れさせながらも口を開いた。
「そう・・・。君は・・・来ると・・・思っていた・・・。必ず・・・」
輝哉は言葉を切り、しっかりと目の前を見据えて言った。
「君は私に・・・、産屋敷一族に酷く腹を立てていただろうから・・・、私だけは・・・君が・・・君自身が殺しに来ると・・・思っていた・・・」
流れてくる輝哉の言葉に、無惨は静かに答えた。
「私は心底興ざめしたよ、産屋敷」
期待外れだと言いたげに、無惨は輝哉を見下ろしながら言った。
「身の程も弁えず千年にも渡り、私の邪魔ばかりしてきた一族の長がこのようなザマで。醜い。何とも醜い」
無惨は吐き捨てるように言った。
「お前からはすでに屍の匂いがするぞ、産屋敷よ」
無惨がそう言うと、輝哉は痣が侵食した細い腕に力を込め、身体を震わせながら起き上がった。