第155章 真実(後編)<肆>
『それから私も君の妹、禰豆子と同じように名をもらったんだ。あの男にしては、なかなか気の利いた贈り物だ』
少女の少し皮肉めいた声に、悶えていた男は背後から『なんだと!?』と叫んだ。
『名前?』
きょとんとする幼い炭治郎に、少女は歯切れのよい朗らかな声で言った。
―――私の名は、汐。
――大海原汐、だ。
その言葉を聞いた瞬間、炭治郎は目を見開いた。そして少女、汐の背中に向かって手を伸ばす。
「汐!!」
汐の名を呼んだその時、最後の花弁が消えかかっているのか視界が歪み始めた。
炭治郎は必死に叫びながら、手を伸ばし続けた。
「汐!!汐!!必ず、必ずまた会えるから!!」
身体が引っ張られる感覚に抗いながらも、炭治郎は叫んだ。
「だから、だから・・・!待っててくれ!!」
その言葉を最後に、炭治郎の意識は途絶えた。だが、視界が真っ暗になる寸前、炭治郎は確かに見た。
こちらを振り返った少女と目が合った。その目は、海の底のような深い青に染まっていた。
そしてその顔は、紛れもなく大海原汐そのものであった。