第155章 真実(後編)<肆>
歪んだ視界が段々と形を帯びてくると、そこには家の前に立つ家族と少女たちがいた。
雪はすっかり止み、温かな日の光が辺りを優しく照らしている。
『もう行かれるのですか?』
葵枝は禰豆子を抱きながら、名残惜しそうにそう言った。
足元で見上げる幼い炭治郎の顔は、今にも泣きそうだった。
『ああ。お前さん達には世話になったな』
そう言うのは少女の背後に立つ男だった。男の顔も少女の顔も、炭治郎には見えなかった。
『長居しちまっただけじゃなく、あの、"ヒノカミ神楽"だっけか?あんな見事なもんを拝ませてくれるたぁ、冥利に尽きるぜ』
『いえ、こちらこそあなた方には随分と助けられました。貴重なお話も聞かせていただきましたし、本当に有意義な時間でした』
炭十郎はそう言って深々と頭を下げた。
『おいおい、男がむやみやたらに頭なんざ下げるもんじゃねえよ。男が頭を下げんのは、女を泣かせたと・・・!』
男が最後まで言いおい割る前に、少女がその拳を鳩尾に叩きつけた。
呻く男をしり目に、少女は幼い炭治郎達の前に立つと、しっかりした声で言った。
『あなた方には感謝している。あなた方は私の知らないことを、沢山教えてくれた。そして私を、人として扱ってくれた』
少女はそう言って幼い炭治郎に近づくと、視線を合わせるように座った。
『炭治郎。君はこれから兄としていろいろと大変だろうが、君には君を愛してくれている家族がいる。だから、大丈夫』
少女はいったん言葉を切ると、意を決したように口を開いた。