第154章 真実(後編)<参>
ふと、少女の視線が葵枝から眠る赤子に移った。それを見た途端、少女は首を捻りながら言った。
『先ほどまで泣いていたようだが、今は眠っているのか。何がそんなに悲しかったのだろう』
少女の言葉に、葵枝はくすくすと笑いながら答えた。
『あれは悲しいから泣いているんじゃないのよ。生まれた時に泣くのは、赤ちゃんの挨拶なの』
『挨拶?』
『そう。"私はこの世界に生まれてきました。これからよろしくお願いします"って言っているの』
『赤ん坊は喋ることができないと聞いているが?』
少女は首を捻りながら、不思議そうに赤子を見つめていた。
『そうね。赤ちゃんは言葉を話せないけれど、誰かの言っていることはきちんと聞いているのよ。不思議よね』
『理解できない。赤ん坊も、人間も』
『ええ。人って本当に難しいの。子供のあなただけじゃなく、大人になっても分からないことの方が多いんだから』
葵枝がそう言った時、眠っていた赤子が目を覚まし、小さく声を上げた。
『起きたのか?』
少女は思わずつぶやき、慌てて口を押えた。すると、赤子は何かを探すように両手を天へと向けている。
その行動の意味は少女にはわからないはずなのに、少女は無意識に赤子に手を伸ばしていた。
すると、少女の小さな手を、赤子の更に小さな手がつかんだ。
少女は驚き、目を見開いた。