第154章 真実(後編)<参>
『うー、あー』
赤子は声を上げながら、少女の手をしっかりつかんでいた。思ったよりも強い力とその温かさに、少女は石のように固まった。
かと思いきや、突然少女は俯いた。そして、炭治郎ははっきりと見た。
少女の顔のあたりから、透明な雫が零れ落ちていた。
『あらあら、大丈夫?』
葵枝は重い体を起こしながらも、少女の涙を手ぬぐいで拭いた。
『小さい・・・、でも、温かい・・・』
少女の声は震えていたが、その声からは怯え等の負の感情は感じられなかった。
『人間って、子供って、こんなに温かいんだな・・・!』
そう言った少女の声は無機質なものではない、確かな感情が宿っていた。
「・・・・」
炭治郎は言葉を発することもなく、その光景に魅入っていた。涙があふれ、頬を濡らしても、彼は拭おうとしなかった。
言葉にできない程の温かく、尊いものが炭治郎に染み渡り、広がっていく。
『そうだ。確かこの子の名前が決まったんだな』
少女は涙を拭きながら、葵枝に向き合った。
『ええそうよ。この子の名前はね・・・』
――禰豆子、と言うのよ。
その言葉を最後に花弁が消え、また視界が歪みだした。
(花弁はあと一枚。次が最後か・・・)
炭治郎は涙をぬぐいながら、最後の光景に向き合おうと目を開いた。