第154章 真実(後編)<参>
「ま、待ってくれ!」
炭治郎は慌てて少女に手を伸ばすが、その手は届くことはなく更に視界がゆがんでいく。
「君は、君は一体誰なんだ・・・!?」
炭治郎の声はかき消され、歪んだ世界は再びはっきりと形を作り始めた。
次に映ったのは、葵枝と赤子。時間は経ったようだが、葵枝の顔は少しやつれているようだった。
だがそれでも、愛しい娘を見つめるまなざしは、どこまでも優しいものだった。
その時外から物音が聞こえ、葵枝は視線を動かした。
『どなた?』
そう尋ねると、外からは息をのむ音が聞こえたが、少し間を置いた後声がした。
『すまない。起こしてしまったか?』
それは青い髪の少女の声。葵枝は思わぬ訪問者に目を見開いたが、口元に笑みを浮かべた。
『大丈夫よ。そんなところにいないで、入ってらっしゃいな』
『・・・いいのか?』
少女の遠慮がちな声に、葵枝は優しく『どうぞ』と答えた。
すっと戸が開き、少女が部屋に入ってきた。やはり炭治郎からは、少女の顔は見えなかった。
『気分はどうだ?出産と言うのは、体力と気力を大幅に消費すると聞いたが・・・』
『そうね。まだ少し怠いけれど、大丈夫よ。ありがとう』
葵枝はそう言って、力なく優しくほほ笑んだ。