第154章 真実(後編)<参>
やがて炭十郎が産婆を連れて戻り、幼い炭治郎と少女は男に連れられて別室へと移動した。
時折聞こえる葵枝の苦しみに耐える声に耳を塞ぎたくなるのを、幼い炭治郎は必死に耐えていた。
そんな彼の小さな手を、少女はしっかりと握っていた。
どのくらい時間が経ったのか、分からなくなりかけたころ。
二人の耳に、産声が届いた。
『!!』
二人は弾かれた様に立ち上がり、男の制止も効かず部屋へと飛び込んだ。
そこには安堵したように胸を抑える炭十郎と、優しくほほ笑む産婆。
憔悴しながらも笑顔を見せる葵枝と、その傍らには・・・
『ちいさい・・・』
布にくるまれた小さな小さな赤ん坊が、声の限りに泣いていた。
『元気な女の子ですよ』
産婆のその言葉に、少女は面食らいながらも幼い炭治郎の背中をなでた。
『女の子、ということは、炭治郎の妹ということか?』
少女がそう言うと、後ろにいた男が『そうだ』と答えた。
その光景を見ていた炭治郎は、目に涙を溜めていた。
あまりにも幼すぎたため、炭治郎自身の記憶は曖昧だった。だが、それでもやはり、人がこの世に生を受けるという瞬間は素晴らしく尊いことだということを、改めて感じた。
炭治郎はぼやけている視界の中、幼い自分を支えてくれた少女が気になり、何とかその顔を見ようと首を動かした。
だがその瞬間、無情にも花弁は消え再び視界がゆがみだした。