第154章 真実(後編)<参>
(大丈夫、大丈夫だよ、昔の俺・・・。妹は、禰豆子は元気に生まれてくるから・・・!)
しかしいくらそれを知っていても、幼い頃の自分はそうではなく、母が死んでしまうのではないかと不安で仕方ないのだろう。
励ましたいが、目の前の光景はただの過去。触れることは叶わない。そんなもどかしさを感じていると。
『大丈夫!』
不意に声がして、炭治郎と幼い炭治郎は同時に顔を向けた。
そこには青い髪の少女が、幼い炭治郎の背中をさすっていた。
『大丈夫だ。君の母親は強い人だ。君を置いて死んでしまったりなんかはしない』
少女の力強い声が、目に涙をいっぱい溜めている幼い炭治郎の心を動かした。
『君は兄になるんだろう?なら、慌ててはいけない。君が慌てていたら、君の弟か妹は驚いて出てこられない』
少女はそう言って視線を前に向けた。歯を食いしばり、顔を歪ませながらも必死に痛みに耐える母親。
幼い炭治郎はそれを見て、小さな手を握りしめながら叫んだ。
『がんばれ、かあさん!!がんばれ、がんばれぇえ!!』
小さな口から飛び出した大きな声援が、葵枝へと届く。
涙をこぼしながらも精いっぱい、何度も何度もそう叫ぶ幼い炭治郎の傍を、少女はずっと離れなかった。
その光景を、男はじっと見つめていた。