第154章 真実(後編)<参>
歌を聴いていた炭治郎は、胸のあたりを優しくつかんだ。いろいろなものがこみ上げてきて、言葉が出てこなかった。
だが、そんな炭治郎の気持ちなど知る由もなく、手の中の花弁は消え再び視界がゆがみだした。
炭治郎が目を閉じ、そして再び目を開けると。
思わず息をのんだ。
『ううう~~~!!!』
まるで喉を締めあげられたようなうめき声が、炭治郎の耳を突き刺す。そして遅れて聞こえてくるのは、あわただしく動き回る音。
そこには体中から汗を吹き出しながら呻く、母の姿があった。
その日は雪の降る夜。その日に葵枝は産気づいてしまい、炭十郎は産婆を呼びに町へと下りて行った。
少女を連れてきた男は、雪道に慣れていないという理由で家に残り、少女と共にできる限りの事をしていた。
(これは、おそらく禰豆子が生まれたときの・・・)
炭治郎は拳を握りしめながらその光景を見ていた。今の自分にとっては初めてではないが、この頃の炭治郎にとっては修羅場だろう。
その推察はあたり、苦しむ母親を前に、幼い炭治郎はぶるぶると小刻みに震えていた。