第154章 真実(後編)<参>
葵枝は少女の言葉の意味は分からなかったが、少女の言う歌とはそういうものではないんじゃないかと思っていた。
『あなたの言っていることはよくわからないけれど、でも、歌って言うのはそういうものだけじゃないと思うの。現に、あなたの歌を綺麗だと言ってくれた人がいるのでしょう?』
葵枝はそう言ってにっこりと笑った。それは少女が今まで見てきた、下卑たものとは全く違う心からの笑顔だった。
自分を拾い、育ててくれた彼とよく似た笑顔だった。
少女は何かを言いかけたが、葵枝の笑顔に毒気を抜かれたのか口を閉じた。
『あなたは不思議な人だ。今までいろいろな人間の"目"を見てきたが、あなたの"目"はとても綺麗で、落ち着く』
そして代わりに出て来たのは、こんな言葉だった。
『あなたさえ良ければ、その歌を、私に教えてくれないか?』
少女の申し出に葵枝は驚いた表情をしたが、再びにっこりと笑うと少女に歌を教えた。
少女のもの覚えはよく、一度歌えば旋律も歌詞もすぐに覚えてしまった。
『こんこん小山の子うさぎは、なぁぜにお目々が赤ぅござる』
葵枝とはまた感じが違うが、美しく優しい歌が少女の口から零れだす。
それを聞いていた葵枝は、少女の歌が人を惑わし傷つけるとは到底思えなかった。