第154章 真実(後編)<参>
『これは子守唄よ。私が住んでいた場所でよく歌われていた歌なの』
葵枝はそういうと、少女に座るように促した。
『こもりうた、とはなんだ?』
『子供を寝かしつけたり、あやしたりするときに歌う歌よ』
葵枝はそう言って、眠る幼い炭治郎の頭を優しくなでた。
『あなたもそのようなことができるのか?』
『そのような事って?』
少女の言葉に葵枝が首を捻ると、少女は目を細めながら言った。
『信じがたいかもしれないが、私の歌には、人やそれ以外の者を惑わし、傷つける力がある』
少女の言葉に、葵枝は驚いたように目を見開いた。
『その歌を目当てに、多くの者が私の歌を利用しようとやってきたが、全てはねのけてきた。今までそうして、私は生きてきた。だから私にとって歌は、自分が生きるための道具に過ぎない』
ただ、と、症状は窓の外を見上げながら言った。
『あの男は違った。私の歌はあの男には効かなかっただけではなく、あいつは私の歌を"綺麗だ"と言ったんだ。初めてだったんだ。そういうことを言われたのは』
窓の外の向こう側にいるであろう、その人物を思いながら少女はそう言った。その声は困惑しつつも、心なしか嬉しそうに聞こえた。