第152章 真実(後編)<壱>
むかしむかし、あるところに。
一人の貴族の娘がおりました。
娘は生まれつき体が弱く、二十歳まで生きられないと言われており、医者は皆匙を投げてしまいました。
しかしそれでも娘は笑顔を絶やさず、前を見続けておりました。
そんな中、ある善良な医者が開発したばかりの新薬を、二人の人間に使いました。
一つは娘に。もう一つはとある貴族の男に。
しかし治療の甲斐なく、娘はこの世を去ってしまいました。
娘が荼毘に付されようとしていた時、突如雷が落ち、屋敷は瞬く間に消失してしまったのです。
関係者たちは焼け跡から娘の遺体を探しましたが、遂に見つかることはありませんでした。
それから数十年が経った頃。
とある漁村で、少女が一人波打ち際で行き倒れていました。
しかし村人たちは、その少女を気味悪がって誰も助けようとはしませんでした。
何故なら少女の髪は、海の底のように真っ青だったからです。
皆物の怪のたぐいだと言って、少女には近づきませんでした。しかし、村はずれに住んでいた少年は、少女の青い髪を「ワダツミヒメ様のようだ」と言い、一目で好きになってしまいました。
ワダツミヒメと言うのは、この海を守る女神と言われておりました。
少年は少女を連れ帰り、二人は一緒に暮らし始めました。
少女の声はとても美しく、彼女を煙たがっていた者たちも、その歌声にたちまち魅了されてしまいました。
そして、ワダツミヒメの伝説にあやかり、少女の事を【ワダツミの子】と呼ぶようになりました。